岐阜地方裁判所 昭和27年(タ)1号 判決
原告 林八代子
被告 林大三 外一名
参加人(禁治産者) 林和夫
一、主 文
被告両名と原告及び参加人との間に昭和二十一年二月二十五日岐阜県武儀郡神淵村長に対する届出によりなした養子縁組はこれを取消す。
原告及び参加人の養子縁組無効確認を求める請求はこれを棄却する。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告並に参加人訴訟代理人は、主文第一項掲記の養子縁組の無効なることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を、右請求の理由のないときは主文第一項並に同第三項同旨の判決を求め、被告等訴訟代理人は、本案前の裁判として請求却下の判決を求め、本案につき原告及び参加人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告及び参加人の負担とするとの判決を求めた。
原告並に参加人訴訟代理人は請求原因として、原告及び参加人並に被告両名は夫々夫婦であるが、原告及び参加人は被告両名と養子縁組をなし、昭和二十一年二月二十五日附にて岐阜県武儀郡神淵村長に対しその旨の届出をなした旨戸籍上記載されている。然しながら参加人は右届出以前から精神分裂症にかかり心神喪失の情況にあつて、養子縁組をなす意思全くなく、原告も亦被告等と養子縁組をなす意思がなかつたものであつて、右届出は被告等が養子縁組届書を偽造してなしたものであるから右養子縁組の無効確認を求める。仮に然らずとするも、原告は大正九年五月十日生、被告林大三は大正元年八月十三日生、被告うたは大正四年六月二十日生であり、養子たる被告両名が養親たる原告よりも年長者であること明であるから民法第八百五条に基き右養子縁組の取消を求めるため本訴を提起した旨陳述した。
被告両名訴訟代理人は本案前の答弁として、本訴は元原告が単独に被告両名を相手方として提起して来たものであるが、昭和二十八年五月十五日の口頭弁論期日に至り民事訴訟法第七十五条に基き参加の申出をなして来た。然しながら被告両名は次の如き理由で参加人の参加申出に異議がある。即ち参加人は昭和二十一年十二月二十日禁治産の宣言を受け、原告はその後見人となつたがその後解任され、被告林うたが後見人に被告林大三の兄訴外西田茂が後見監督人にいずれも選任せられるに至つたものである。而して、養子縁組の如きは被後見人の利益にこそなれ不利益を来すものではないから被後見人たる参加人と後見人たる被告林うたとの利益が相反する場合ではない。従つて参加人が参加の申出をなさんとすれば、後見人たる被告林うたが参加人の法定代理人として参加の申出をなすべきであつて、後見監督人が参加人の法定代理人として参加の申出をなすべきではない。仮に然らずとするも、禁治産者の後見監督人は一人に限らるべきであつて、複数の後見監督人を認むべきではない。従つて岐阜家庭裁判所は昭和二十八年五月九日禁治産者なる参加人の後見監督人として前記西田茂の外に奥村逸子を選任したが、右選任決定は無効であると認むべきであるから奥村逸子を法定代理人としてなした本件参加申出はその効力がないものというべきである。仮に然らずして、数人の後見監督人の選任が許されるとしても、後見監督人が利益相反行為に被後見人を代表すべき場合にはその全員が共同してこれを行うべきであつて、その中の一人の後見監督人が単独にこれを行い得るものではない。従つて奥村逸子が単独に被後見人たる参加人を代表してなした参加の申出は無効というべきである。仮に然らずとするも養親の養子に対する養子縁組の無効確認又は取消の訴は養親夫婦が共同原告となるべきであつて、いわゆる固有の必要的共同訴訟である。而して、民事訴訟法第七十五条は数人が共同して訴えたる場合において判決は共同訴訟人全員に対して合一に確定すべく、且その判決の効力が特定範囲の第三者に及ぶべきいわゆる類似必要的共同訴訟に限つてその適用を見るものである。けだし既に行われている他人間の訴訟の判決の効力が第三者に及ぶ以上、その第三者は自らその訴訟手続を利用して併合審理を求める手段を与えられるのが便宜であるに反し、固有必要的共同訴訟においてはそのことが許されないからである。従つて本件の場合において参加人は民事訴訟法第七十五条により本件訴訟に参加すべき余地なく、若し原告が共同原告となるべき参加人の欠陥を補正し固有必要的共同訴訟の要件を具備しようとすれば、参加人が被告両名に対し別訴を提起し本訴と追加併合を求めるの外はない。従つて参加人の参加申出は不適法というべきである。
以上いずれの理由によるも、本件参加人の参加申出は不適法でありその申出は却下せらるべきである。既に参加申出が却下を免れない以上、前記の如く固有必要的共同訴訟である本訴において、共同訴訟人たるべき参加人と共にせず原告単独になした本訴提起も不適法として却下すべきであると述べ、
本案の答弁として、原告主張事実中原告及び参加人並に被告両名が夫々夫婦であること、原告主張の如き養子縁組の届出をなしたことはこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。殊に右届出当時は参加人は多少精神に異状を来していたに過ぎず、本件養子縁組届出は参加人をはじめ関係者親族一同協議の結果なしたものであつて参加人は勿論原告も縁組に対し何らの異議が存しなかつたものであると述べた。
原告並参加人訴訟代理人は右被告等主張事実中、参加人が禁治産の宣告を受けたこと、原告が一旦後見人に選任されたがその後解任せられ、被告等主張の如く被告林うた及び訴外西田茂が夫々後見人後見監督人に選任せられたこと、岐阜家庭裁判所が被告等主張の如く後見監督人として奥村逸子を追加選任したことはこれを認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。殊に後見監督人は各自監督権又は代表権を独立して行使し得るものと解すべきであるが、仮に監督権或は代表権の独自行使につき民法第八百六十三条第二項に基く家庭裁判所の処分を必要とするものと解すべきものとするも、後見監督人奥村逸子は昭和二十八年六月二十六日岐阜家庭裁判所から独立して参加をなし得る権能を与える旨の処分を得たから、参加人の参加申出はその手続につき何ら間然するところはないと述べた。
被告等訴訟代理人は、右原告並に参加人の主張事実は全部争う。殊に後見監督人が数人ある場合、その一人が単独にて監督権又は代表権を行使せんとするときは民法第八百六十三条第二項の処分によることを得ず、他の後見監督人を解任する以外に方法はない。仮に右の場合民法第八百六十三条第二項の処分にて足るとしても、右処分は本件参加申出後になされたものであるから本件参加申出の違法が補正せらるべき理由がないからいずれにせよ本件参加申出は不適法であると述べた。
原告並に参加人訴訟代理人は右被告等の主張事実はこれを争うと述べた。
<立証省略>
三、理 由
本訴が元原告が単独で被告両名を相手方として提起したものなること、その后参加人が被告等主張の如き民事訴訟法第七十五条により参加して来たものなることは記録上明である。而して被告等は参加人の参加申出について異議を述べているから先づ参加人の参加申出の適否について検討して見よう。
参加人が禁治産の宣告を受けたこと、原告が一旦その後見人に選任せられたがその後解任せられたこと、被告等主張の如く被告うた及び訴外西田茂が夫々後見人後見監督人に選任せられたこと、岐阜家庭裁判所がその後後見監督人として奥村逸子を追加選任したことは当事者間に争がない。そこで被告等は養子縁組は被後見人と後見人と利益相反の場合に該当しないから後見人が参加人を代理して参加の申出をなすべき旨抗争しているが、養子縁組が被後見人の利益となるものと解すべきや否やに論なく、本件の如く後見人たる被告林うたを相手方として参加の申出をなし、訴訟を追行せんとする場合においては如何なる意味においても利益相反の場合に該当しないとなすことが出来ないから被告等の右主張はその理由がない。被告等は更に後見監督人は一人に限らるべきであるから後になされた奥村逸子の選任は無効であり、同人が代理人としてなした参加の申出は不適法である旨抗争しているが、後見監督人の数については後見人に関する民法第八百四十三条の如き規定がないのみならず、むしろ監督機関が多数存することが監督を厳重にする所以とも考えられるから被告等の右主張はその理由がない。更に被告等は、数人の後見監督人が存在し、利益相反行為につき後見監督人が被後見人を代表すべき場合には、各後見監督人は共同して代表すべきものであり、奥村逸子が単独にてなした本件参加の申出は無効である旨抗争しているから此の点について検討して見よう。数人の後見監督人が存する場合に、その職務を行う方法につき何らの定めがないときは財産目録の提出請求の如きいわゆる監督事務の場合はともかく、利益相反する場合の代表行為については原則として後見監督人が共同して代表すべきものと解すべきこと被告等主張の通りであるが、此の場合においても家庭裁判所が申立又は職権により民法第八百六十三条第二項の処分をなしたときはその処分に従つて処理し得べきものと解すべきである。けだし民法第八百六十三条第二項は広く「被後見人の財産の管理その他後見事務について必要なる処分を命ずること」を得る旨規定し、特に右の場合を除外すべき趣旨が認められないからである。本件の場合において、当初後見監督人奥村逸子が単独にて参加人を代理して参加の申出をなしたる後、岐阜家庭裁判所が奥村逸子に本件参加の申出をなし得る旨の権能を賦与したこと従つて参加申出当時の代理権の欠缺が右岐阜家庭裁判所の権能賦与により補正せられるに至つたことは成立に争のない丙第三号証及び弁論の全趣旨に徴し之を認め得るから被告等の右主張もその理由がない。
被告等は右の場合民法第八百六十三条第二項を適用すべきでなく、要すれば他の後見監督人を解任すべきである旨主張しているが、民法第八百六十三条第二項が右の場合に適用すべきではないとの主張の理由のないことは前記説明により明であるから被告等の主張はその理由がない。又被告等は参加申出後に家庭裁判所から前記の如き権能が賦与せられたとしても、代理権の欠缺が補正せられない旨抗争しているが、その主張の理由なきことは民事訴訟法第五十四条の趣旨に徴し明であるから被告等の右主張も採用することが出来ない。
被告等は更に本件の如く養親より養子に対する養子縁組無効確認又は取消を求める訴は固有必要的共同訴訟であり、民事訴訟法第七十五条の参加の申出は、類似必要的共同訴訟に限り許さるべきで固有必要的共同訴訟については許さるべきでないから本件参加申出は不適法である旨抗争し、本訴の如く養親から養子に対する養子縁組無効確認又は取消訴訟が固有必要的共同訴訟であること被告等主張の通りであるが、固有必要的共同訴訟においても、民事訴訟法第七十五条の参加申出の許されること明であるから被告等の右主張も亦その理由がない。
かように見てくると参加人の参加申出に対して被告等のなした異議は理由なく、参加人は適法に本訴に参加したものといわねばならない。
而して本件養子縁組無効及取消訴訟は固有必要的共同訴訟であること前記説明の通りであるから、養親たる原告及参加人が共同原告となり養子たる被告等を共同被告として訴を提起すべきものといわねばならない。然るに本訴においては原告が単独で被告等を相手方として本訴を提起したこと前記認定の通りであり本訴の提起自体が不適法であること勿論であるが、参加人が本訴に参加したことにより右欠缺は補正せられるに至つたものというべきである。従つて此の点を理由として本訴請求の却下を求める被告等の主張はその理由がないものといわねばならない。
そこで進んで本案について判断することとするが、先づ原告及び参加人が本件養子縁組の無効確認を求める部分について検討して見よう。原告本人並に被告本人林大三尋問の結果、被告本人林大三尋問の結果により成立を是認すべき甲第一号証及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告及び参加人並に被告両名が夫々夫婦なること、原告主張の如く原告及び参加人が昭和二十一年二月二十五日被告両名を養子となす旨の届出がなされ、その旨戸籍上登載せられていることを認めることが出来る。而して、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき甲第三号証の一乃至五、原告本人並に被告本人林大三尋問の結果によれば、参加人は右縁組届出がなされた日以前から精神分裂症にかかり、被告主張の如く多少精神に異状を呈した程度ではなく、全く心神喪失の状態にあり従つて本件縁組の意思も全くなかつたことを認めることができるが、原告において縁組の意思がなかつたとの原告の主張事実についてはこれに副う証人奥村茂一の証言、同武藤真一の証言の一部、原告本人尋問の結果は措信しがたく、他にこれを認めるに足る適格なる証拠がないのみならず、証人福井達夫、同中島こうの各証言被告本人林大三尋問の結果によれば、原告は参加人と共に本件養子縁組をなすことを承諾していたものであつて、只養子縁組届書(甲第一号証)を被告林大三が代表して作成したものなることを認めることが出来る。然るときは原告は民法第七百九十六条に基き本件養子縁組につきその意思を表示出来ない夫たる参加人の名義をも使つて縁組をなしたものといわねばならないから、本件養子縁組は無効となるべき理由がない。尤も前記甲第一号証によれば、本件養子縁組届は原告及参加人の名義でなされているが、その趣旨は原告及参加人の名義においてなしたものと解せられないこともないから、右事実によつて縁組の効力が左右せられるべき理由がないものといわねばならない。結局本件養子縁組の無効確認を求める原告の請求は失当であるといわねばならない。
次に原告及び参加人が本件養子縁組の取消を求める部分について検討して見よう。
被告両名が原告主張の如く、原告より年長者なることは前記甲第一号証被告本人林大三尋問の結果並に弁論の全趣旨に照し明である。而して民法第七百九十三条が年長者を養子となすことを禁じた趣旨は苟くも養子は養親より年長者たり得ずとなす趣旨であるから、夫婦が養子をなす場合仮令夫婦の一方が養子より年長者であるとしても、他方が年少者なるときは当然当該養子縁組は取消を免れないものといわねばならない。本件の場合に於て参加人が被告等より年長者なること右甲第一号証により之を認め得るが、右事実ありとするも本件養子縁組は当然民法第八百五条によつて取消すべきこと右説明に照し明であるといわねばならない。
以上の理由により原告及び参加人の本件養子縁組無効確認を求める部分は失当であるからこれを棄却すべきであるが、これが取消を求める部分は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、第九十三条を適用して主文の如く判決する。
(裁判官 奥村義雄)